こんにちは。同志社大学 知的機構研究室の長尾です。
2024年8月11日〜8月16日に開催されたACL2024へ参加したので、ご報告します。
ACLは計算言語学の国際会議です。公式の説明によると、計算言語学とは、計算の観点から言語を研究する学問とされています。また、非常に近い分野として自然言語処理があります。両分野は密接に関連しており、実際のところACLは自然言語処理の会議としても機能していると考えていいでしょう。正確な定義の違いについては他に譲ります。
毎年夏に年次大会が開催されており、今年はタイの首都バンコクでの開催でした。6日間で、本会議および関連分野のワークショップが行われました。私は今回、Scholarly Document Processing(SDP)というワークショップに参加しました。
1日目:チュートリアル
初日にはチュートリアルが行われました。午前と午後でそれぞれ3つずつのチュートリアルが並列で行われており、好きなテーマを選んで聴講しに行く形式となっていました。
私は以下の2つのチュートリアルを聴講しました。
- Vulnerabilities of Large Language Models to Adversarial Attacks
- このチュートリアルでは、LLM(大規模言語モデル)に対する敵対的攻撃について議論されていました。unimodal LLM(テキストのみを扱うモデル)に加え、multimodal LLM(テキストと画像を扱うモデル)に対する具体的な攻撃方法とモデルの脆弱性が網羅的に紹介されていました。
- Computational Expressivity of Neural Language Models
- このチュートリアルでは、言語モデルの能力について、形式言語の観点から議論が行われていました。具体的には、有限オートマトンやチューリングマシンなどの形式言語の道具を用いて、RNNやTransformerといった言語モデルを理論的に説明する方法が解説されていました。
また、夜は会場内でWelcome Receptionが行われました。チュートリアルの聴講中に偶然知り合いに遭遇していたので、夜はその方が在籍している他大の研究室の御一行に仲間入りさせていただきました。テーブルに居合わせた現地企業で働かれている方々とお話ししたり、他の日本人グループと交流するなど、楽しく過ごすことができました。


2〜4日目:本会議
2日目からは3日間、本会議が行われました。本会議には、MainとFindingsの2つのセクションがあり、いずれも1000近く、合わせて2000近くもの論文が採択されていました。ワークショップ参加者や聴講参加者も含めると、会場にはその数を優に超える参加者が来ていたように思います。
3日間とも、最初にKeynote(基調講演)があり、その後各口頭・ポスター発表が行われるという流れになっていました。KeynoteはいずれもLLMやそこで使われる学習方法であるIn-Context-Learningにまつわる話でした。現状のLLM研究における様々な課題が紹介され、今後に向けての問題提起が行われていました。
さて、本会議では、前述の通り非常に多くの発表が行われていました。まず口頭発表では、1つの時間帯に5つ程度のセッションが並列で行われていました。私の体感としては、言語資源(特に低資源言語)に関するセッションが多かったように思います。続いてポスター発表では、1つの時間帯に150〜200件程度の発表が同時に行われていました。口頭発表は比較的空いていた印象でしたが、ポスター会場は常に混み合っており、若干発表が見辛い部分もありました。また、あまりに発表数が多すぎて正直全て見るのは不可能だったので、ポスターの写真だけ撮って後回しにした発表もいくつかありました。

また、本会議2日目の夜には、Social Eventが行われました。会場近くの別のホテルにて食事会が行われた後、同じ会場内の特設会場でムエタイの試合が行われました。間近で試合を見ることができ、迫力満点でした。
5〜6日目:ワークショップ
5日目からは2日間、ワークショップが行われました。合計30ほどのワークショップに対し1つずつ部屋が設けられ、各部屋でそれぞれKeynoteや口頭発表が行われました。またポスター発表では、1つの大きな部屋に複数のワークショップの発表者が集まり、各自発表するという形式でした。
私は今回、Scholarly Document Processing(SDP)というワークショップに参加し、研究者埋め込みについてポスター発表を行いました。これは3月のNL研で発表した内容を英語化したものです。事前に準備していたフレーズ集を片手に、なんとか発表の概要と課題を伝えられたような気がしますが、質問に上手く答えられない場面もありました。相手の言っていることは分かるのですが、それに対する回答が英語で上手く表現できず、もどかしい思いをしました。ただ、嬉しい出来事もいくつかありました。英語が出てこず詰まっている際、たまたま通りかかった別の聴講者の方が簡単な表現に言い換えて助けてくれたり、いくつも論文を読ませてもらい参考にしている海外の研究者の方が立ち寄ってくれたり、などなど…ポスター発表ならではの良さを感じる瞬間でした。
SDPの他の発表では、LLMを活用する試みがやはり一定数あった他、我々の研究室で取り組んでいる別のテーマと非常に近い内容も見かけました。今後も是非なんらかの形でこのコミュニティに関わっていきたいと思いました。ただ個人的には、今後このコミュニティがどう発展していくか楽しみな一方、慎重にならないといけない部分もあると思っています。最近、AIベンチャーのSakana AIがThe AI Scientistなるサービスを発表しましたが、こうした動きに対するコミュニティの向き合い方については、今後他分野・他コミュニティからも注目されていくはずでしょうし、だからこそ今一度しっかり議論すべきだと考えています。


おわりに
最後にお気持ちを綴ってしまいましたが、改めて言語処理のトップ会議に運良く参加できたこと、またそこで様々な繋がりが出来たことに関しては、本当にありがたく思っています。
この場を借りて、参加の機会を与えてくださった指導教員の桂井先生、学会運営者の皆様、現地で交流してくださった皆様に感謝申し上げます。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。


